こんにちは!助産師のユイです。これまでに新生児訪問や乳幼児健診、そして子育て支援センターなどで赤ちゃんの成長についてたくさんの相談を受けてきました。このコラムでは、最新の研究を元にパパ・ママの心配や疑問に答えます!
今回のテーマは「産後うつ」です。
産後うつは誰でもなる可能性があり、症状や対応方法をお母さんだけでなく周囲の人たちも知っておく必要があります。この記事をぜひ参考にしてください!
もくじ
産後うつとは?マタティーブルーとの違い
ここでは、産後うつ病の症状や発症時期、マタニティーブルーとの違いを解説します。
産後うつとは?
産後うつとは、ホルモンの変化や環境の変化など産後の状況がストレスとなって起こるうつ病です。
産後うつ病の主な症状は、以下のようなものがあります。
アメリカ精神医学会の基準では、産後4週間以内に発症したうつ病を「産後うつ病」としていますが、世界保健機構(WHO)では産後1年以内の発症で、産後であることが大きな要因となっているものを「産後うつ病」としており、こちらの範囲が多く採用されています。
実際の発症は産後2週間~3か月ごろが多く、産後の女性の10~15%程度が罹患すると言われています。
マタニティーブルーとの違い
「産後うつ」と「マタニティ」は、どちらも産後に起こる心の不調ですが、発症時期や持続期間、対応方法などに大きな違いがあります。
マタニティーブルーの症状は、気分の浮き沈みや涙もろさ、不安感などが挙げられるのに対して、産後うつは無気力や絶望感、時には「消えてしまいたい」といった気持ちになるなど、症状がより強いという特徴があります。
産後うつは、多くの場合マタニティーブルーから移行すると言われています。産後1週間程のうちに気持ちの落ち込みを感じたら、さまざまなサポートを受けて心身ともに休息することが大切です。「まだ頑張れる」「まだ大丈夫」と思わずに周囲に助けを求めましょう。
産後うつの原因
産後うつの原因ははっきりと解明されていませんが、以下の要因が関係していると言われています。
- 産後のホルモンの変化
- 産後の体の痛みや体調不良
- 生活の変化
- 育児の不安や緊張
ここでは、それぞれの原因について紹介します。
産後のホルモンの変化
妊娠中は、赤ちゃんをお腹の中で育てるためのホルモンが胎盤から分泌されることで妊娠を維持しています。そして出産で胎盤が子宮から剥がれると、体の中では妊娠を維持していたホルモンが急激に減少します。
胎盤から分泌されていたホルモンは、脳内の気分を安定させる働きにも影響するため、産後は精神的に不安定になりやすい状態となります。
産後の体の痛みや体調不良
産後はたとえば以下のような痛みや体調不良が多くみられ、産後うつとの関係があると言われています。
- 子宮の回復に伴う内臓の変化
- 貧血や隠れ貧血
- 会陰切開や帝王切開などの傷の痛み
- 腰痛、膝痛、腱鞘炎など
産後、大きくなった子宮が元に戻るまでには6~8週間かかると言われています。子宮の回復とともに、お腹の上へと押し上げられていた腸は少しずつ元の位置へと戻っていきます。
つまり順調に回復している人でも、産後6~8週間は内臓がお腹の中で少しずつ移動しており、体の負担が大きい時期なのです。
また、出産では多くの人が通常では考えられない量の出血があります。分娩時の出血は500mlまでは「正常」の範囲内で、「安産」であっても数百mlの出血をしている可能性があり、さらに悪露も産後数週間続きます。
出産で多くの出血があったとしても貧血にならない人もいます。しかし、血液検査の数値として出てこなくても、筋肉や肝臓などに溜めている「貯蔵鉄」(血液中の鉄が足りなくなったときに使われる鉄)が不足している可能性があります。
貯蔵鉄が不足すると以下のような症状が現れることがあり、体調不良から心のバランスが崩れることがあります。
- だるい、疲れやすい
- 集中力の低下
- めまいや頭痛
- 免疫力が低下する
さらに、産後は会陰切開や帝王切開などの痛みが持続している人が少なくありません。慣れない育児で腰痛や膝痛、腱鞘炎など体のさまざまな部分に痛みを感じるようになる人もたくさんいます。
産後は育児に必死で、自分の不調に気づきにくいことがあります。また、本当は休んでいたい程の痛みやつらさでも、赤ちゃんが泣けば頑張るしかないという状況の方も少なくありません。
体の痛みや不調は産後うつの大きなリスクであることを覚えておきましょう。
生活の変化
産後は赤ちゃんとの暮らしが始まり、今までの生活が激変します。
特に新生児期は産後の体調回復が十分でない中、夜間もまとまった睡眠がとれず、食事もゆっくりとることが難しい場合も珍しくありません。
不規則な生活や睡眠不足、栄養不足は産後うつのリスクとなります。
育児の不安や緊張
「赤ちゃんとの暮らしは、不安と緊張の連続です」と話すお母さんは少なくありません。
栄養は足りてる?
ちゃんと息をしている?
吐いたけど大丈夫?
こんなに泣くのは普通のことなの?
…など、心配は尽きません。
不安や緊張は、生活の変化や体の不調などと相まって、産後うつにつながることがあります。
赤ちゃんと暮らし始めて不安がまったくない人はいませんが、気持ちがつらくなってしまうほど不安を感じるときには産後うつの可能性も考えましょう。
私は産後うつになりやすい?チェックシートで確認してみよう
前章で紹介したように、産後うつは出産した人であれば誰にでもリスクがあります。一方で産後うつに「なりやすい条件」もあります。
産後うつになりやすい条件を、以下のチェックシートで確認してみましょう。
産後の方は以下のリストもチェックしてみてください。
チェックが多いからといって必ずしも産後うつになるわけではなく、逆に少なくても産後うつになることもあります。
このチェックシートはあくまで「傾向」を確認するものとしてセルフケアに役立ててください。また、妊産婦さんの周囲の方は、このシートを産婦さんの気持ちを聴くためのツールとして使うといいでしょう。
産後うつの予防方法
産後うつは、以下のような方法で予防できる可能性があります。
パートナーと情報や気持ちを共有する
妊娠中から、産後の育児や家事について具体的な内容を話し合い、共有しておきましょう。友人や親、子育て支援センター、保健センターなど、困ったときの相談先を確認・共有することも重要です。
また、妊娠中に感じていることは積極的に相手に伝え、産後の気持ちの変化などを話しやすい土壌を作っておくことや、産後うつについても一緒に勉強しておくこともおすすめです。
「ひとりではない」という安心感は孤独を弱めます。
睡眠と栄養を確保できる環境をつくる
睡眠不足と栄養不足は心の疲れに直結します。
赤ちゃんの睡眠リズムが落ち着くまでは昼夜関係なく育児が続き、お母さんひとりでは精神的にも身体的にもかなりの負担になります。
家族のサポート、家事支援やシッター、産後ケアなどの支援を積極的に利用して、お母さん自身の健康を守りましょう。
産後の支援については、自治体の保健センターなどで情報を得ることができます。できれば産前に情報を集め、必要な手続きがあればあらかじめ済ませておくと利用がスムーズでしょう。
自分の時間・ホッとできる時間を少しでも確保する
赤ちゃんが生まれるとさまざまなことが心配になり、お母さんがひとりの時間を過ごしたいとはなかなか思えないかもしれません。もしかしたら、母親なのだから我慢しないとと思っている人もいるかもしれません。
一方で、赤ちゃんのことが大切だからこそ緊張が続いてしまい、気づかないうちに心が疲れてしまうこともあります。
短時間でも外を散歩したり、赤ちゃんのことは誰かに任せてお茶を飲むなどホッとできるような自分の時間を作りましょう。
パートナーや家族などの周囲の人も、お母さんがそのような時間を作れるようサポートしましょう。
情報に振り回されない
今はインターネットやSNSで育児情報を得たり、同じ年ごろの赤ちゃんの様子を知ったりすることが簡単にできます。
情報が多いことは強みになる一方、どの情報が正解なのか迷ったりほかの赤ちゃんの成長とわが子をつい比べてしまうなどマイナスに働くこともあります。
心配があるときには、出産した産院や保健センターなどで実際にわが子をみてもらいながら相談することをおすすめします。
赤ちゃんの成長は想像以上にさまざまです。一般論を読んでそれに当てはまらないことに焦るより、実際の様子からアドバイスしてもらう方が解決に近づけるでしょう。
「もしかして産後うつ?」と思ったときにすべきこと
ここでは、「もしかしたら産後うつかも」と感じたときの対応方法を、お母さん自身が気づいた場合と、パートナーなど身近な人が気づいた場合にわけて紹介します。
お母さん自身が自分で気づいた場合
まずは身近な人に、つらい気持ちになっていること、産後うつかもしれないと思っていることを伝えましょう。
身近な人に伝えるのが難しい場合には、自治体の保健センターや出産した産婦人科に電話で相談もできます。保健センターがわからない場合は、自治体の代表電話にかけて「赤ちゃんの子育てのことで相談したい」と伝えれば、担当につないでもらえます。
つらい気持ちになったときは、我慢しようとせず、誰かに頼ることがとても大切です。
周囲の人が気づいた場合
パートナーや家族など周囲の人が「もしかして産後うつでは?」と気づいた場合は、まずはお母さんの気持ちを聴きましょう。
眠れてる?
食欲はある?
しんどいのでは?
…など、心配していることを伝え、感じていることをそのまま話してもらえるよう安心感をもってもらえるように話しましょう。
話してくれたことには否定やアドバイスはせず、「それはつらいね」など共感を返します。
そして、たとえば以下のように、お母さんが安心して休息がとれるよう調整します。
- 睡眠時間を確保する
- ひとりで過ごせる時間をつくる
- ゆっくり時間をかけてお風呂に入ってもらう
- 栄養のある食事を用意し、ゆっくり食べられるようにする
上記は例ですが、場合によっては「不安が強いのでひとりになりたくない」ということも考えられます。こちらから提案しつつ、お母さんの希望や意見を尊重しましょう。
特にパートナーである場合は「手伝う」というスタンスでなく、「自分も一緒に育児をする当事者」という立場で話を聴いたり赤ちゃんを引き受けることが大切です。
また、産後うつは、カウンセリングや服薬など、回復のために医療的なケアが必要なケースがあります。赤ちゃんのお世話をしながら病院を受診することや、ご家族など付き添いの方の都合、そして特に母乳育児の場合にはお薬を飲むことへの気持ち的なハードルなどから受診を躊躇する方も少なくありません。一方で、医療にかからなかったことで産後うつが長期化するリスクや、もし長期化してしまった場合の育児を含めた生活への影響は計り知れません。
受診先は、かかりつけの精神科や心療内科がある場合にはそちらを受診してください。かかりつけの精神科等がない場合は、まずは保健センターや出産した産婦人科に相談してください。
※お母さんから話を聴く中で「消えてしまいたい」「私はいない方がいい」などの発言があった場合は、急を要します。早急に外部機関に相談してください。
まとめ
産後うつについて、症状や対処方法などをまとめました。
産後うつは誰でもなる可能性があります。お母さん自身だけでなく、パートナーや身近な人にも知ってもらい、心の不調を感じたらすぐに対処できるようにしましょう。
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